Collective Wisdom(CW) 構想の概要
専門家の潜在的な知見、経験値で直面する業務遂行を支援するResponsible AI
• 実業務の専門性を「専門家の魔法」から「思考プロセスを透明に工学する世界」へ
• 非専門家を専門家の集合知で支援し、非専門家が目指すべきより高い知の領域へ誘う
今日の世界では大きな社会変革がはじまり、人間存在の証となる「知」の在り方が問われる中、事業現場では専門人材の知見、知恵の継承が喫緊の課題となっています。我々は、事業の強みを担ってきたが属人化している専門家の知恵、経験知に注目して、これをマネジメントするシステムを実現し、日本の国際競争力を革新する一助となる活動を進めます。
本事業では、直面する現場、業務実体に対応する知恵を「使いこなし、応用の叡智」として位置づけてサイバー・フィジカルシステム(CPS)への実装を進めます。この知は手法、メソッド、教科書やマニュアル等の顕在知の上に、専門家がその経験や知恵で積み上げられた「属人化された知」です。日本のモノづくりの「現場力」は秀逸であるものの専門家に潜在しており、欧米から見ると「東洋の魔法」と映る現状です。ここでは東京大学「デジタルトリプレット構想」による工学的なナレッジ記述法と連携し、本CW事業を通じて専門家の叡智を思考プロセスとして形式知化したうえで集合知化します。日本が蓄積してきた「使いこなし、応用の叡智」をシステム的に運用することを通じて、多くの製造業が喫緊の課題として直面している「業務運用の専門性」の経験のない専門家への継承問題を支援します。
一方、本構想は真の意味でのDX化(デジタル置き換えではなく、トランスフォーメーション=業務変革)を推進する切り札ともなるべきものです。明示化した「使いこなし、応用の叡智」を活用し、CPSで仮想化した現場に対して分析、最適化、適応制御、意思決定のプロセスの見直しを支援することで、業務改革を推進します。
さらには、本事業の狙いは日本が造りこみの時代に積み上げてきた「知」をシステム的に活用する手法の実現です。これをCPS/デジタルモノづくりシステムにおける最上位のナレッジ技術として位置づけてモノづくり力の国際競争力として再構築する活動を進めます。
尚、世界的に活用が進んでいる生成AIでは原理的にそのアウトプットに責任を持てない現状です。生成AIとは思想的に異なる「思考プロセスを透明化する機構」を基盤に専門家の知恵を組み込み、結論に至る思考プロセスを説明できる本アプローチは「Responsible AI」、すなわち責任あるAIとしての役割を果たしていきます。生成AIとも共存して運用し、思考プロセスの透明化と記号処理の統合による新しいナレッジ・マネジメントを目指します。
Masahiro Nakamura, Prof., Ph.D., LEXER RESEARCH Inc.
背景
- 今日、隆盛する各種のAIサービスでは、一般化された知識処理や学習できる範囲での知識によって業務 の効率を高める支援を提供するものの、専門家の経験下に潜在的に置かれているノウハウ、知に関する 領域は、AIの技術原理的に対象外である。また、現実のシステムと連動していくことも、これからの課題。
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一方、様々な領域において競争力を与え、付加価値を生み出す「知」の多くは、専門家の「潜在的な知」の領域に留まっている。この潜在知を何らかの形で取り扱い可能とし、嵩付加価値サービスとして活用することには、大きなポテンシャルがあるとともに、人類の将来へ向けて課せられた我々の責務である。
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特に、日本における製造業を始めとした産業における強みは、経験値ともいうべき潜在知にあるが、これをメソッド化して言語化、論理記述することができていない。さらに、これらの知を潜在的に有している専門家はシニア世代に。定年を経て、日本の経験知の死滅は時間の問題となっている。
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さらに、AIにかかる産業はコア技術の開発において米国に圧倒的な遅れを取り、日本は挽回不可能な状況である。加えてその社会的問題も十分に認識されず、欧米発AIを便利に利用することで、日本の持つ知見がAI企業に吸収され続けていることは、日本のデジタル貿易赤字を加速させる要因ともなる。
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このような状況の中で、専門家の有する潜在知をマネージする技術体系を開発するとともに、潜在知が現存している間にこれらの叡智を収集、獲得する活動を行う必要がある。
目的
「背景」で説明した現状の問題に対して、以下に掲げる活動を推進することを目指す。
- デジタルシステム上で専門家の潜在知を利活用するナレッジシステムを開発(CollectiveWisdom Platform)し、普及させる。
- 取り扱うナレッジとしては、価値を生み出す思考プロセス、行動プロセスを対象とする。技能として位置づけられる身体感覚的な要領に関係する知見は対象外とする。ただし、技能者の行動にあっても行動プロセスとして記述できる範囲は行動プロセスの領域であり、本構想の対象内である。
- このナレッジシステムにより遂行すべき活動を支援することで、非専門家であっても専門家の知見に誘導されて、専門家と同等のレベルでの業務遂行を実現する。
- ここでの業務遂行に当たって、現実世界を反映するデジタルツイン(CPS)や、現実世界を設計するデザインシステムと連携することで、現実世界の問題対応をCWエージェントとして直接的に支援する。
- Collective Wisdomを実行するナレッジシステムと上記項目の業務システムの連携の中では、何らかの 形で「ヒト」を介在させて、いわゆる「Humanin the Loop」の構成を採る。ナレッジと業務システムの連環の中で「ヒト」を介在させることでヒトの成長を支援するとともに、そこでの新たな経験値をナレッジの改良、発展の起点とする。
- 一方、専門家の潜在知を顕在化する活動は基盤であり、その技術開発を進めることと並行して、製造業を中心とした専門家を組織化し、本ナレッジシステムで取り扱うことができるデータ形式で顕在知のナレッジデータベース化を遂行する。(→CollectiveWisdom Centerで実施)
デタス化を遂行する。(→CollectiveWisdom Centerで実施)
CW構想の背景と目的
PD3による知識記述を通じて暗黙知を顕在化させて、集合知、全体知を造り上げる。その全体知を幅広いエ ー ンジニアに対する共通な価値創造プロセスとしてナビゲ ションし、組織全体を一体化した知的活動として推進。

Collective Wisdom 構想の目的と課題対応
Collective Wisdom (CW)が想定するナレッジ化が目指す目的と課題対応の例を掲げます。
❶思考プロセスが複雑で動的な命題推進をナビゲートする
•課題/フローチャートで静的に描けない動的なプロセスフローがある
•→思考の動的な展開を管理する機構により、探索的な思考をナビゲートする
•例/「ボトルネック探索法」では、次々と直面する状況に応じて対応方法を示す
❷専門的な経験値が必要な思考、判断や意思決定を支援する
•課題/判断における基準や対応方法が示されているものの曖昧で、直面する対象をどう、判断すればよいかわからない
•→判断のための補佐的知識を経験値の定義や推論による打ち手候補を生成することで支援する
•例/計画策定を行う場合、複数の解候補からどれを選択すべきかの考え方を示す
❸専門家の考え方はわかるが、直面する業務に対してどう行動すればよいかわからない問題を支援する
•課題/思考プロセスが示す対応指針に対してどう、目の前の業務に対応する状況をどう、理解すればよいかわからない
•→直面する状況をサイバーデータとして管理し、そのデータに直接的に対応する
•例/IoTで収集したレポジトリデータに対して、どう、手を付けるかを示す。
❹結論に導く思考プロセスを説明することができる
•課題/結果だけではなく、結果に至る思考の経緯を示したい
•→結論に帰着する思考の流れや判断の経緯をトレースし、ログを示すことにより、結果で示されたの合理性を説明可能とする
•例/DR(デザイン・レビュー/製品やサービスの設計・開発プロセスの各段階で行われる「設計審査」)での検討は検討結果に留まらず、検討を行った経緯、プロセスの的確な説明が求められる。